老舗企業が新たなブランディングを行うって
どういうことでしょうか?
150年続く清水清三郎商店は
日本酒「作」ブランドで
近年高い評価を得て、世界的な人気を誇る酒蔵に急成長しました。
妥協を許さない酒造りで、ぼく自身も大好きなお酒ですが
癖の強い個性を主張するのではなく
正統派の素直な味
人が集まる場を作ること、への願いを込めた「作」というブランド名
に込めた思いが味わいとなっています。
伝統から学ぶことはもちろん
近代的テクノロジーも積極的に取り入れながら
常に進化しています。
そんな企業精神から学んで
伝統から未来への橋渡しをしながら
人の集まる場を作る、というブレない軸を貫くことを
デザインのテーマとしました。
- 創業の地、若松の伝統的街並みと調和する墨色の外壁と、下屋と呼ぶ庇下の空間
- 伝統的な杉樽への敬意を表した杉仕上げの軒が、工場に温かみを加える
- 企業の歴史を支えて来た、古い事務所の大黒柱や瓦の軒飾りを移設
- モダンなデザインとしてまとめ、伝統のストーリーを海外からの来客にも、分かりやすくアピール
- お酒だけでなく、料理も一緒に楽しめる場を工場の中心とし、料理人や芸術家の協力も仰ぐことで、人の集まる場を作る喜びを表現
実際には、住宅地の決して広くはない土地で
建て替えるという課題の中で
伝統と未来に向き合う中で、生み出していった手法です。
酒造りを止められないので
新しい建物を建てては、既存設備を引っ越すという繰り返し。
わずかに空いた空間を利用して建て
既存を解体して空いた空間を動線にする
といったパズルのような工程を繰り返しました。
また、最新の設備を導入し、増産を行う計画は
大きな空間を必要とし
住宅地には不釣り合いな建物になってもおかしくありませんでした。
多くの工場で無秩序な増築が繰り返されるのも現実です。
しかし、今まで支えてくださった地域への感謝を込めて
街並みに調和するデザインとして下屋を提案し
古くからある道から連続する配置を慎重に検討しました。
そういった中でお酒の米を磨くように
本質をシンプルに磨いて行ったデザインが
この工場に「作」の精神を宿らせることになったと確信しています。
- 設計グループ「ミエケンジンカイ」による共同設計
- 用途 : 工場
- 所在 : 三重県鈴鹿市
- 延床面積 : 3,048.84m2
- 設計期間 : 2017~2021
- 竣工写真撮影:谷川ヒロシ