密集市街地で、さらに多世帯で住む。
生まれ育った都心の一等地。
他には替えられない生活の価値があります。
でも、大人が一緒に住むには、それぞれのペースも守った
干渉しすぎない距離感がほしいけど
まあ、密集地だから仕方ないかと割り切ることも多いと思います。
そんな課題に向き合った
都心の二世帯住宅です。
大きな吹き抜けや光庭など、大小の空間を適切に配置して、明るく風通しの良い開放感のある居場所に集まる家族、隣の家族とのほどよい隔たりといった、距離感をデザインし、気の流れの良い環境を実現しました。
<背景>
両親が住む敷地内に、姉妹それぞれの家族の住宅を加え、計三世帯のための小さな町並みのような環境を計画することとなりました。
三家族は、それぞれに生活ペースが異なり、普段は互いに遠慮せずマイペースに過ごしながら、集まれるときには集まる暮らしを希望されていました。肩を寄せ合うような密集市街地の同一敷地内でどのように適切な距離感を実現できるでしょうか?
<提案>
同じ形状の建物を、前後にくっつけて、それぞれの家族の場所に当て、独立性を重視する提案をしました。大小ひとつずつの箱の組み合わせで一家族、大小大小で二世帯分です。南北に長い敷地なので、通常だと後ろの世帯が暗くなりがちですが、世帯間に小を挟んで隙間をつくり、北側住戸にも光や風が入る開放的な住まいとし、隣と比較せず自分たちらしい生活を楽しめるようにしました。
それぞれの家族の空間は、スキップフロアで立体的につながり、どこにいても相手の気配が感じられ、仲の良い家族が共に過ごすのに最適です。半階移動する度に様々な高さや広さの居場所があります。リビングは軽快な屋根のかたちに沿って風が吹き抜ける広場のような空間です。
<設計の技術>
密集市街地の困難な条件の中、光、風、熱の流れが良くなるよう、コンピュータシュミレーションを併用してデザインと環境のバランスを検討しながら、設計を進めました。
路地の突き当たりの敷地内まで、路地を延長するようなアプローチをイメージし、敷地外とのつながりを感じる解放感をつくりました。路地が膨らんだ小さな光庭を、各戸に対応して設け、流れの中の溜まりとしています。そこは、子供たちが三世帯から見守られて安心して遊べ、大人たちは井戸端会議ができる空間です。
路地のイメージを室内にも延長しました。スキップフロアで一体感のある室内を立体路地と見立て、隣地の庭などを借景にした広がりのあるシーンが連続し、広場に見立てたリビングを経て、ルーフバルコニーで路地を見下ろす場所に立つ、というように内外が一体的に感じられることで面積以上の広がりが感じられます。
光と風の流れ
路地や光庭によって周辺や2住戸の間に距離を取り、風や光が入りやすくしました。その効果で両親宅も、明るく風通しが良くなりました。
南から北に向かって大小大小と繰り返すうち、大きいヴォリュームは南に伸び上がって光と風を室内に取り込みます。リビングでは屋根をV字に折り空間の広がりをつくりながら、南北に吹く風の流速を室内外で高め、通風を促します。仕切りが少なく一体感の高い室内空間では、光が下階まで流れ落ち、風は建物全体に流れます。
熱の流れ
建物全体の断熱性能を高め、できるだけ空調に頼らない室内環境を作り、また空調使用時には、一体空間ができるだけ効率的に室温調整されるようにしました。シルバー屋根は意匠性だけでなく、夏期に熱負荷が小さくなる効果があります。LDKの大空間は冬期にエアコン暖気が天井面にたまるので、扇風機を効率的に配置する簡単な仕掛けで空気の流れをつくって熱を平準化し空調効率を高めています。半地下には床下収納を作り、貴重な収納スペースを確保しつつ空気層をとる事で、居室部の断熱性能高め、冬の居住性を良くしました。
<住まいの様子>
大きな空間を利用して、クリスマス飾りをするなど暮らしを楽しんでいただいています。お子さんが小さな頃は、スキップフロアが友達の間で人気で、いつも誰かが遊びに来る楽しい生活をされていました。家族の成長とともに生活ペースも変わりましたが、ほどよい独立性のおかげで、互いに遠慮せず快適に暮らされています。
- 用途 : 一戸建ての住宅(二世帯住宅)
- 所在 : 東京都目黒区
- 延床面積 : 186.37m2
- 設計期間 : 2011〜2012
- 竣工写真撮影:鈴木研一
- 新建築住宅特集2013年7月号「特集/集まる〜世帯のあり方」掲載