家族といえども、それぞれに違う趣味嗜好があったりします。
各自が好きなことをしながら
相手も尊重する関係がつくれたらいいですよね。
でも、どうしても相手の趣味やペースがストレスになることもありませんか?
そのストレスを軽減して、一緒に暮らす喜びを共有できたら最高ですよね。
そんなテーマに向き合った
郊外住宅地に建つ二世帯住宅です。
ひとつ屋根の下、二世帯が暮らす二つの建物を建て、その隙間に町並みが入り込んだようです。土間空間によって、世帯間にはほどよい距離感があり、お互いの気配を感じながら、独立した生活が送れます。
<背景>
ご両親は、動植物が大好き。元のご自宅では、人も動植物も分け隔てなく一緒に住まう楽しい生活を送っていらっしゃいました。でも年々増え続けるため、人の生活空間が圧迫されることや、お掃除など日々の管理が課題となっていました。
お嬢さん夫婦が実家に戻り、一緒に住まう家を建てることになって、きちんと分けた生活をしたいと考えられました。世帯ごとに独立した生活をしたいし、人と動植物も分けたい。でも、動物も植物も安定した室内で育てたい。そんな課題をどう解決すればいいでしょうか?
<提案>
ひとつ屋根の下、小さな家が建ち並ぶ街並みのようなイメージを提案しました。ひとつの家はご両親、お隣さんはお嬢さん家族の家として、間に広がる土間の路地空間が動植物の居場所。そうすると、同じ家に人も動植物も同居しているという近さが解消されて、お隣さんが庭で飼っているという、「ほどよい距離感」が生まれます。窓から見える隣家と同じように、ご両親の家、お嬢さんの家と互いに心の距離を取れる、同時に気配も感じられるので、ご安心いただきました。動植物には人から切り離しながら、室内に居場所を設けられ、土間なので清掃も手軽にできます。
<設計の技術>
土間空間は、表のアプローチから内部の路地を経て、裏庭まで敷地いっぱいに広がります。犬の散歩の後、路地に面した浴室で足を洗う、鳥を外に出して日光浴させる、鉢植えの南洋植物は夏は外に出し冬は内に入れて防寒する、など内外を行き来しやすくしています。
熱容量の大きい土間床は、夏は日射を遮って冷気をため、冬は日を当てて暖気をためることができ、それを各家族が利用して、できるだけエアコンに頼らない生活を目指しています。夏は庭の池で冷やされた冷風を室内に採り込めます。
ふたつの家は、各世帯が互いに干渉しないように独立性を高めました。その表現として、土間を吹き抜けにして、両家が向かい合って建っているようデザインしました。一方で互いの気配を感じ、安心できるようにもしました。両家の天井を一体的にデザインし、窓を通して連続する天井面が見えるので、互いの生活がひとつ屋根の下で広がっていることが感じられます。
天井面には、天窓、照明機器を収めるくぼみ、天井裏収納の開口、薪ストーブの煙突貫通口などを、統一した四角い開口としてデザインし、天井面のスッキリした広がりをつくっています。この開口を通してトップライトから木漏れ日のような光が注いで土間空間を明るく保ちます。トップライトを開ければ重力換気で風が通り、土間の匂い抜き、子世帯の換気としても機能します。
外観では、軒樋で水平線を強調し、ひとつ屋根の下を強調しました。外壁は動植物の生命感の背景としてクールなブルーグレーとしました。3種の色グラデーションで外壁面を分割し、家が集まって街並みとなる様子を表現しました。全体ボリュームの大きい建物を周辺の住宅のサイズに調和させる効果もあります。
<お住いの様子>
ご両親は、広がった動植物のスペースで伸び伸びと飼育して、ますます楽しまれています。お嬢さん家族は独立した生活をしながらも、お子さんたちが両家を行き来して、賑やかに暮らしています。ほどよく離れ、ほどよくつながった距離感で、互いが自分のペースを守りながら、お隣さんどうしの絆を感じる生活を楽しんでいらっしゃいます。
- 用途:一戸建ての住宅(二世帯住宅)
- 所在:千葉県船橋市
- 延床面積:190.40m2
- 設計期間:2012
- 撮影:新建築写真部
- 新建築住宅特集2013年7月号「特集/集まる〜世帯のあり方」掲載